GOLDEN AGE ~追跡屋TAG~

自作の連載小説をあげていきます。

006 日本現代史 ~第二次太平洋戦争~

 


 2020年7月10日、K国の宣戦布告により、第二次太平洋戦争が勃発した。

 日・米連合軍 対 K国の構図であったが、実際にはC国・R国と米国の代理戦争的性格の強いものであった。
 開戦からわずか一週間後の7月18日、K国より東京に向けて核ミサイルが発射され、東京は壊滅的な被害を受けた。
 終戦後、日本は首都機能が麻痺したことで一時的に恐慌《きょうこう》状態に陥ったものの、それからわずか15年で見事な復興を遂げることとなる。

 

 開戦までの経緯を見ていく。

 戦争に繋がった要因として、エネルギー問題が挙げられる。
 後進国の発展等に起因してCO2排出量は年々増加の一途をたどっていたが、国際的なCO2削減の取り組みも効果が上がらず、天然ガスなどのクリーンエネルギーでも賄いきれない状況があった。
 化石燃料の枯渇を懸念した石油産出国が輸出制限をかけるなど、この時期は世界的に緊張が高まっていた。

 そんな中、2019年10月に、日本の核融合技術研究センターが世界初のレーザー核融合技術による核融合炉の試験運転に成功した。
 次世代エネルギー革命の本命とされていた核融合炉の実用化は、エネルギー問題の解消に大きく貢献するものと期待された。
 しかし、日本の国際的な政治的発言力が増すことを危惧したいくつかの国が、日本が米国と共同で核融合技術の軍事転用を計画しており、国際的パワーバランスを壊すことに繋がるものだとしてこれを批難する姿勢を取った。
 日本が核武装のための兵器開発をしているのでは、との疑惑に対し、IAEAの査察により「そのような事実はない」との調査報告が国連に提出されたが、これらの国は強硬な姿勢を変えなかった。

 

 もう一つの要因として挙げられるのが、K国との関係悪化である。
 当時、K国は核開発と実験を繰り返しており、日本や米国との軋轢が強まっていた。
 国連決議による経済制裁によって窮地に立たされていたK国は、かねてより軍事力による事態の打開を図っていた。上記のような国際関係の悪化につけ込む形で、C国やR国と接近し、軍事行動に向けた準備を進めていた。

 こうした背景の中、日本から米国への技術提供の協定締結が引き金となり、K国の宣戦布告を皮切りに第二次太平洋戦争が始まったのである。

 

 核保有国同士の戦争であることから、可及的速やかな事態の収束が求められた。
 米軍を中心とした連合軍は、無人攻撃機による基地を中心とした空爆を行った。また軍幹部への斬首作戦が二度実行されたが、これはいずれも失敗に終わっている。

 連合軍側は、人工知能を搭載した最新の自律式兵器を使用していた。しかしK国は、独自開発した人工知能に、戦局のシミュレーションと作戦立案そのものを委ねていた。
 次第に敗色濃厚になる中、K国が人工知能に事態を打開するための判断を委ねたところ、人工知能が出した結論は、「日本と米国へ保有する核ミサイルを同時多発的に撃ちこむ」というものであった。
 すでに冷静な判断力を失っていたK国の首脳陣はこれを鵜呑みにし、7月18日、核ミサイルの発射ボタンが押されたのである。

 

 東京に20発、沖縄に5発発射されたうち、23発は迎撃に成功したが、2発が東京上空で爆発した。
 その被害状況から、爆発したうち一発は中性子爆弾であったとみられており、C・R両国からの兵器供与が疑われたものの、両国はこれを強く否定した。
 ちなみに、このとき米国に向けて撃たれたミサイルは、全て撃沈されている。

 核による被害は甚大であった。

 爆心地を中心に、半径5キロ以内の多くのビルや家屋、それに範囲内にいた人々が爆風に吹き飛ばされ、あるいは焼き尽くされ、この世から消滅した。この時、約5万人が即死した。
 また半径10キロ四方に多量の放射線が降り注ぎ、約50万人が被ばくした。特に中性子線により家屋内にいた人々にも被害が及んだことから、50万人という未曽有の大規模被ばくに繋がった。いまだに、後遺症や、白血病をはじめとする晩発性障害に苦しむ人も少なくない。

 

 核攻撃の翌日7月19日から、連合軍による集中攻撃が行われ、7月28日にK国は無条件降伏をした。
 連合側は、①K国の非核化と民主化、②K・R・C各国に対する賠償金の支払いを条件に降伏を受諾。
 K国の主だった軍幹部や首脳陣は国際軍事裁判により処分を受け、また国連主導による戦後統治が行われることとなった。
 日本に対しては、合計300兆円の賠償金の支払いが約束された。

 

 終戦後も、首都に壊滅的打撃を受けた日本では、政治機能と経済機能の麻痺状態が続いた。
 国連や米国による復興支援が行われたものの、海外投資機関の資金引き上げや外資系企業の撤退も多く、経済大国としての日本の信用は失墜した。
 復興財源として充てられた賠償金も効果的に運用できる主体がおらず、戦後復興の見通しが立たない状態であった。

 そんな中、東京復興の具体的な計画を発表したのが、日本発のベンチャーキャピタル最大手の株式会社three leaves(現four-leaves)である。

 three leavesは前年に完成したレーザー核融合技術をはじめ、いま現在我々の生活や企業活動において欠かせない存在となっている人工知能、また現在では主流となったループ型ゲート方式の量子コンピュータの中核技術への投資を行っていた。
 そのthree leavesが、終戦翌年の2021年3月に東京復興計画「15」を発表。
 関係省庁と共同で作成した、東京スカイポリスタワービルを中心とした超巨大事業の15カ年計画であった。その実行を委託されたthree leavesは、four-leavesと改名した上で、2036年の完了を目指して復興に乗り出した。計画発表会見における(当時)統条正樹社長が連呼した「日本人よ、再び立ち上がれ」のスローガンは連日大きく報道された。

 復興事業には戦争賠償金の他、各国からの支援金や投資も募った。また復興事業は多くの雇用を生み、これにより日本の経済状況も上向きに転じた。15年という具体的な数字を掲げたことも、国民心理にプラスの影響を与えたと思われる。
 都市設計に際しては、「世界に誇る近未来型スマートシティ」を掲げ、あらゆる面で今後の世界規範となる都市を目指した。

 電力や水道、エアロトレインに代表される輸送・交通、東京湾に浮かぶメガフロート農園による食料自給といったインフラ整備から、企業誘致による経済競争力の強化や雇用創出、観光事業による経済効果、二酸化炭素排出量ゼロなどの環境面への配慮など、最先端の都市モデルとして設計された新しい東京は、世界から注目と称賛を集める存在となった。

 

 特に注目すべき点としては、人類初の人工全脳(通称:花澤AWB)を活用したことである。
 AWB(Artificial Whole Brain)は人間の脳を構造的・機能的に完全再現した人工脳である。戦争で命を落とした花澤頼仁博士が基礎理論を構築し、それを受け継いだ天衣雄一博士が完成させた。
 従来のAIが特定の領域でのみ知能的に振舞っていたのに対し、AWBはあらゆる情報を有機的に統合し、総合的な判断を下すことが可能な汎用型人工知能である。
 AWBの実用化は、東京の都市設計に大いに役立ったと言われている。AWBについては機密保護の観点から詳細は明らかにされていないものの、今日でも都市機能の最適化のため稼働を続けており、東京に暮らす人々の生活を支える最大の柱になっている。

 

 復興計画から12年、2033年にスカイポリスタワービルが完成。
 東京は二度の世界大戦から立ち直り、世界最大の経済都市に成長したのである。